2017年7月29日土曜日

住民先行、行政後追い

防災は想定外をなくすこと

2011年3月11日、東日本大震災が起こり、福島第一原発に大きな被害が出た。あのような高さの津波は「想定外」だったと東電側は弁明した。しかし、その危険性を知りつつも対処しなかったという議論もある。同年、紀伊半島豪雨で水害、その後、広島の土砂災害、長野神城断層地震、常総市鬼怒川氾濫、熊本地震、福岡、大分大水害と自然災害に見舞われてきた。その度ごとに被災地でのマスコミのインタビューに答えて、被災者は口を揃えて「こんなことになるとは夢にも思わなかった。」「まさか、ここで。」「びっくりしました。」と答えている。



防災の仕事とは1つでも「想定外」をなくしていくことではないだろうか?自分は大丈夫。ここは大丈夫と安全バイアスが働き、災害を「自分」のこととは考えない傾向がある。あるいは、「行政がなんとかしてくれる」という非現実的な期待や甘えがある。今、求められるのは住民の防災意識と主体的な防災行動なのではないか?

災害大国日本では、災害はどこででも起こりうる。特に首都直下地震と南海トラフ地震は今後30年で70%という高確率で予測されている。その被害想定も詳しく出ている。都心南部地震(首都直下型地震)では、2万人以上の方が亡くなることが判っている!もはや「想定外」ではない。日本には2000本ほど活断層があると言われているが、実際、調査され、評価されているのは110本ほどにすぎない。見えない活断層はどこにでもあるとも言える。都心の真ん中を走っているかも知れないのだ。




地震災害だけではない。先日は福岡、大分の豪雨で大水害となり死者まで出た。この辺りで大雨になると大体の予測はできても記録的豪雨を降らせる「線状降水帯」は後から「ここで起こった」と言えても、前もってどこで発生するのかが分からない。大気の状態によって東京都心で起こることもあり得る。アスファルトの都心では排水が間に合わず道路や家屋の浸水、さらに地下街への浸水が起こる。豪雨水害もどこででも起こりうるのだ。


住民先行、行政後追い
地震、火山に関して言えば、「今までが静かすぎたので、『普通=本来の頻度』に戻りつつある」というのが専門家(武蔵野学院大学特任教授 島村英紀氏)の評価だとすれば、危険は迫っていると考えたほうがいい。それでは「備え」はどうなっているのだろう。




2017年7月11日に東京都庁を会場に「災害復興まちづくり支援機構」が主催して「第11回、専門家と考える災害への備え 地域防災編〜地域主体の防災、地域主体の復興」が開催された。筆者も参加した。印象に残ったのは東京大学生産技術研究所准教授の加藤孝明氏の講演だった。「自助」「共助」「公助」がナイスな掛け声に終わってないかという指摘である。加藤氏曰く

1.「自助」の無策
  実際は家具の固定も未だ4割の人はやっていない。緊急トイレの認識もま
  だ低い。
2.「共助」の自己満足
  地元の防災訓練に出てくる人は限られている。(しかも主体は高齢者)
  少数の決まった人たちで「やっている」とう自己満足に終わってないか?
3.「公助」の言い訳
  公立学校(多くは避難所となる)の耐震化も予算などの言い訳により未だ
  に5割しか進んでいない。

結局は住民が「自律的」に「内発的」に動くしかないと言うのだ。防災は地域を知ること。起こりうる地域の被害状況に関する共有認識を住民が主体的に立ち上がって持つようにすることが大事。災害リスクは上から与えられるものだけに頼らず、主体的にリサーチしてゆく。「住民先行」「行政後追い」が理想的な公助だという

実際、セミナーの後半は世田谷区や新宿区での取り組みが紹介された。世田谷区では区内の11の建築関係の団体が結集して平常時から社会貢献、そして、防災へと繋げている実例が紹介された。新宿区戸塚地区では「災害時支援ネットワーク」が形成されており、早稲田大学の学生も巻き込んで「事前復興まちづくりデータベース」つくりをしている。どちらも市民主体の防災活動である。

キリスト教界では地域で教団を超えた「教会防災ネットワーク」作りが始まっており、社協や地元消防署と連携しての「防災フェスタ」の開催などを行っている。


防災から支援、支援から復興へ 
防災、支援、復興(町づくり)は一連の出来事であり、切り離すことができない。まさに「防災」も「町づくり」なのであって、どういうコミュニティやネットワークを町に築いているかが町のレジリエンス(町の復興力)に直接関係してくるのだ。事前から顔の見えるネットワークがあると「支援」や「復興」が早いことは言うまでもないだろう。




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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュ・ジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士

栗原一芳 (くりはら かずよし)
contact@crashjapan.com




2017年7月15日土曜日

災害都市 「東京」

東京は世界一の自然災害リスク都市

スイス再保険会社(保険会社の保険会社)「スイス・リー」が2013年にまとめた「自然災害リスクの高い都市ランキング」で東京・横浜地区が世界第1位となっている


一極集中で、人口密度の高い東京は今後、インフラを狙ったサイバーテロや政治的テロ、ミサイル攻撃の標的となる可能性が高い。福島原発や浜岡原発の災害時影響下にもある。またパンデミック(流行疫病)などの影響を受けやすい。また自然災害の被害も尋常ではない。人のいない砂漠で竜巻が起こっても、それを災害とは呼ばない。人口密集地で起これば、大災害となりうる。東京は人が多い。新宿駅一駅での乗降客が70万人以上。山手線内で生活し働いている人が900万人と言われる。東京都で1300万人。関東圏で3000万人。都心南部地震の場合、東京都で13000人の死者が出ることが予測されている。そのうち11000人は東京23区内。直下地震の場合、津波被害は無いが、建物の崩壊と火事が主原因となる。第一要因は火事で、首都圏で16000人が火事で亡くなる。約7000名が建物の崩壊やブロック塀の倒壊による死者となる。

 それに加え、富士山の噴火が起これば交通、通信手段に大影響が出る。また東京は高台と低地に大きく分かれるので、低地では豪雨、台風による川の氾濫、浸水が起こりうる。主要河川の氾濫が起これば低地(足立区、葛飾区、台東区、墨田区など)の浸水で180万人に影響が出るという。


東京は海溝型地震と内陸直下型地震、両方起こる都市
ここでは地震災害について詳しく見てみよう。地震は大きく2つのタイプがある。海溝型(海の底が震源)、内陸直下型(都心の真下が震源)東京は、この両方が起こる場所なのだ。関東の場合、海溝型は1703年に起こった元禄関東地震、1923年の関東大震災がこれにあたる。震源は相模トラフ。この間220年。次の元禄型地震はこの周期を当てはめれば2143年となるので、まだ100年は起きないことになる。しかし、2011年の東日本大震災で牡鹿半島が5.4m動く大移動があり、(首都圏でも30cmから40cmずれた)この周期が早まっている可能性が指摘されている。関東では元禄型地震の前にM7級の直下型地震が数回起きている。これが今言われている首都圏直下地震である。関東大震災以来、1995年の阪神淡路大震災まで日本は震度7を経験しなかった。関東大震災、東京大空襲を経験した東京ではあるが、戦後、みごとに蘇り、高度成長時代を迎える。1964年の東京オリンピックに向けてライフラインや首都高など、東京のインフラが立ち上がった。この間、驚くべき「静穏期」だったのである。専門家も「いままでの100年ほどは『異常』に日本の火山活動も、首都圏の地震も少なかった。」(武蔵野学院大学特任教授 島村英紀氏)と評価している。しかし、今、「普通」に戻りつつあるという。



ともあれ、東京の下には太平洋プレート、フリピン海プレート、北米プレートの3つのプレートが重なり、ひしめき合っている。太平洋プレートは年に8cm、フィリピン海プレートは年に4〜5cm日本側に動いている。そのような危険なところに1300万人の人が密集して住んでいる世界都市は他にない


見えていない活断層
ちなみに内陸型直下地震は、どこで起きるか今の地震学で予測することはできないという。またかならずしも同じ場所で繰り返されるとも限らない。



さらに活断層に至っては何とも心もとない。首都圏では3〜4kmの堆積層があり、地下に活断層があっても見えない。見えないものは定義上、活断層ではないと見なされる。だから実際は首都圏の地下に「見えない活断層」が多々あるかも知れないのだ。安政江戸地震のように「見えてない」活断層が動いた歴史もある。

つまり、結論は次期東京の地震はどこで起こるかわからないということだ。一応、震源推定地を18パターン想定した地図もあるが、わかりにくいので、東京都は4つのパターンにしぼっている。ただ、そこで起こるというより、そこで起こった場合の被害予測を立てているにすぎない。

1)フィリピン海プレートが起こす内陸直下型地震 (多摩直下)


2)立川断層が引き起こす内陸直下型地震。



3)太平洋プレートと北米プレートの間で起こる海溝型地震(関東大震災型)


4)内陸型直下地震の一つである東京湾北部地震


4)に関しては震源は横浜、川崎あたりかもしれない。事実、今年になって政府の地震調査委員会は局所的な地震発生確率のアップデートを発表した。それによると今後30年で震度6弱以上の発生確率では千葉市85%で一番の高確率、そして、横浜市81%が続く。これを見るとむしろ東京湾北部地域は安心してしまうかも知れないが、以下の図も一応わかりやすいシュミレーションとして都心南部を震源に被害想定を出しているのであって、実際はどこで起こってもおかしくないことを知るべきだ








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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュ・ジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士

栗原一芳 (くりはら かずよし)

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2017年3月20日月曜日

迫りくる首都直下地震

今年に入ってソロモン諸島近辺でM6-7級の地震が頻発している。
これがどう日本に影響するのか懸念されるところだ。


3月24日、新しい情報が入りましたので、紹介致します。
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ベヨネース列岩に噴火警報 伊豆諸島青ヶ島の南の岩礁海上保安が24日、上空から行った測で、伊豆諸島の青ヶ島の南の海域にある岩礁ベヨネース列岩で、海面の色が確認されました。は今後、小規模な海底噴火が発生する可能性があるとして、24日午後3時、ベヨネース列岩に噴火警報を発表し、周辺の海域では海底噴火に警戒するとともに、噴火による石などに注意するよう呼びかけています。
 http://www.jma.go.jp/…/volc…/forecast_03_20170324150016.html
http://www3.nhk.or.jp/n…/html/20170324/k10010923051000.html…




さて、3月11日は各地で東日本大震災6周年の記念イベントがあった。筆者は東久留米市社会福祉協議会主催の防災セミナーに参加した。講師は跡見学園女子大学観光コミュニティ学部、コミュニティデザイン学科教授で元板橋区防災課長でもあった鍵屋一氏であった。結論は公助、自助は弱い、従って近所力が災害時は一番大事ということで、「顔の見えるコミュニティ」を形成しておくことが必要とのこと。

今回は、首都直下地震が迫っていることにフォーカスして鍵屋氏のセミナーをリポートしたい。鍵屋氏のフレーズは「大災害は忘れない頃にやってくる」で、実は歴史を見ると日本列島での大地震は15年から30年の短い期間に連続して起こっていることが分かるという。具体的に見ていこう。


貞観の時代
863年 越中、越後で大地震(北陸)
864年 富士山や阿蘇山が噴火
868年 播磨、山城で大地震(関西)
869年 M8 以上の貞観地震(東北)
その後、肥後(熊本)、出雲(島根)、京都、千葉で地震
878年 南関東でM7以上の直下地震
887年 M8以上の東海、東南海、南海の三連動地震(南海トラフ地震)

この間は25年


天正、慶長の時代
1586年 飛騨、美濃、近江でM8の天正大地震(関西)
1596年 伊予、豊後、伏見でM7の慶長地震(関西)
17世紀初頭、十勝沖から根室沖までM8.4級の地震
1605年 M8以上の東海、東南海、南海三連動型の慶長大地震(南海トラフ)
1611年 M8級の慶長三陸地震(東北)
1615年 慶長江戸地震

この間は30年



元禄、宝永の時代
1703年 M8級の元禄関東地震
  関東大震災はこのタイプ(相模トラフを震源とする海洋型)
1707年 M8.4の東海、東南海、南海三連動の宝永地震(南海トラフ)
  同年、富士山が噴火
1717年 M7.5宮城県沖地震(東北)

この間は15年



 大正、昭和の時代
1923年 M8  関東大震災(関東)
1936年 M7.4 宮城県沖地震(東北)
1944年 M8.2 東南海地震(中部、関西)
1946年 M8.4 南海地震 (関西、四国)
  2年の差はあるがほぼ連動した南海トラフ地震
1948年 M7  福井地震(北陸)

この間26年


そして、「平成の時代」
1995年 阪神・淡路大震災(関西)
2004年 中越地震、2007年中越沖地震、その後能登半島地震、岩手・
      宮城内陸地震
2011年 M9の東日本大震災(東北)

20xx年  首都圏直下地震? 南海トラフ巨大地震? 
富士山噴火?



歴史的なパターンでは東北の大地震関東の大地震そして、南海トラフ大地震の3つがパッケージになっている。前後して関西や北陸での地震もセットされている。そのパッケージのタイムフレームが15年から30年なのだ。

そして、平成の時代のパッケージのタイムフレーム起点を1995年とすると、25年後なら2020年(オリンピックの年!)30年後なら2025年となる!2020年までに起これば東京オリンピックは中止となるし、2030年以降となると南海トラフの周期と重なってくるので複合災害となる可能性もある。いずれにしても厳しい時代に突入してしまっている。

さらに・・・

内閣府中央防災会議の発表によると首都直下地震(M7級)の発生確率は今後30年で70%。南関東は100年に4〜5回のM7直下地震が起きている。近年100年間には1921年、1922年、1987年、・・・

つまり、

2021年までにはあと1〜2回M7級の直下地震が起こる可能性が高いということになる。ここ3〜4年の話である。オリンピック前後にはどう見ても1度は起こるということになる。

30年間に70%とはどういう確率だろうか?

30年間の危険率
* 火災で死傷する確率            0.2%
* 交通事故で死亡する確率          0.2%
* 交通事故で負傷する確率           20%
* ジャンボ宝くじで100万円以上当たる確率 
  (年4回20枚づつ買った場合)      0.7%

                     (以上、鍵屋氏のセミナー資料より)
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さて、ここでもう一度、首都直下地震の被害想定を見ておこう。





ライフランの被害想定は
   一般道は復旧に1ヶ月
   都内5割で断水、停電 復旧に1ヶ月程度。
● 地下鉄は1週間。JRや私鉄では一ヶ月程度の運行停止。


携帯での通話は困難となるが、インターネットは9割通じるので、SNSでのコニュニケーションはほぼ確保されるようだ。




国の支援体制としては有明が災害対策本部となり、川崎区の東扇島がベースキャンプ、および物資輸送中継基地となる。





筆者は写真の日の出桟橋周辺を取材したが、湾岸は震度7の可能性もあり、予定通り使えるのか不安を感じた。ちなみに、南海トラフ地震では津波が発生し、東京湾内でも最大3mと予測されているため、湾岸の倉庫は浸水する恐れもある。東京23区で6強という激震となると道路に亀裂が走り、しばらくは通れなくなる可能性があり、物資輸送が困難になる。


 



やはり、自助、共助の部分が大きな意味を持つ。初めの1週間くらいは隣近所で、あるいは近くの避難所となる小学校などで、お互い助け合って生き延びることが現実となってくる。



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