2015年12月15日火曜日

帰宅困難者対策訓練 体験リポート


8万5000人の帰宅困難者が滞留する池袋駅

2015年12月14日(月)に行われた豊島区(池袋駅周辺)帰宅困難者対策訓練に参加した。池袋駅周辺を対象に「池袋駅混乱防止対策協議会」が立ち上げられている。訓練参加者が付けるビブにも記載されている。訓練には事前の申し込みが必要。9時15分くらいに受付場所の西池袋公園に行ってみると、すでに受付テントの周りにグリーンのビブをつけた訓練参加者があちこちに。企業単位での参加者が多い。受付でグリーンのビブと携帯ライト、レインコート、ホッカイロ、災害時対応マニュアル、池袋周辺の災害時支援ステーションとなる店舗などが載ったマップなどが入ったエコバッグを受け取る。エコバッグの色は、黄色、緑、茶色などがあり、色によって、メトロポリタンホテル、東京芸術劇場など5箇所の訓練場所へ誘導される。

   

               (地下商店街で地震発生想定、身を低くして待機)

今回渡された緑のバッグを持っている参加者はパルコ地下のISPIkebukuro Shopping Park)の地下道へ移動。電気ショップLAVIの地下入り口に面した通路と言えばわかるだろうか。実際に災害が起こった時も、ここが一時避難場所となる。そして、ここでの災害時誘導は商店街ISPの人たちが担当する。このようなターミナル駅では行政、商店街、警察、消防が一体となって動かないと効果的な救助、支援活動はできないからだ。

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池袋駅
8路線が乗り入れるターミナル駅。全体の1日平均の利用者数は約258万人。JRだけでも乗車人数1日平均が549,503人(2014年)で新宿に次ぐ、第2位。東武・西武・東京地下鉄は第1位の乗客数を誇る。東京都西部や埼玉県南西部からの利用客が多い。東京都が想定する主要ターミナルの帰宅困難者の数は駅別に、東京駅(14万2000人)、渋谷駅(10万3000人)、新宿駅(9万1000人)、品川(8万9000人)そして、池袋(8万5000人)となっている。*
*「都市住民のための防災読本」渡辺実 新潮新書
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午前10時、M7の首都直下型地震が発生、豊島区の震度は6弱以上、鉄道等公共交通機関が運行全面停止という想定で始まった。ISPの人たちが通路にロール状になったダンボール紙を敷き、その上にブルーシートをかぶせテープで貼る。避難者はその上に身を低くして待機する。近くの民間事業者の一時滞在施設(今回は、池袋駅前公園沿いの第一イン池袋)の準備が整った知らせが入る。誘導員に従って徒歩で移動。歩いて3分ほど。ホテル2階の宴会場に男女2グループに別れて床にすわる。(実際は、真ん中につい立てが立てられる)ここで災害当日一晩明かすこととなる。結構、びっしりで「体育すわり」となる。ここではホテルの人が指揮を取る。


(ホテルの宴会場が一時滞在施設に)           (エアマット、アルミシート体験)

まず、幾つかのエアマットとアルミシートが配られ、実際使ってみる。エアマットはポンプがないと、膨らませるのは楽ではない。実際、横たわってみると床に直に寝るのとは段違いに楽になる。上部を丸めると枕代わりになる。アルミシート(1枚のかなり薄いシート)は布団代わりにかけて暖を取る。これ一枚で大分違う。ただし、本番では部屋に寿司詰め状態なので、横たわって寝るスペースが無い。ホテルの中なので、冬や雨の時を考えれば助かるが、「体育すわり」で一晩明かすのは辛いものがある。

そのあと、消防署によるAEDの使い方や怪我人の運搬(担架の運び方)のデモンストレーション。三角巾を使っての怪我の手当ての2人一組での練習があった。赤の他人同士に会話が生まれる。他の4箇所の一時滞在施設でも同じような訓練がなされた模様。最後にアルファ化米の試食。これは到着時にすぐ開封してペットボトルの水を入れておく。(一部の訓練参加者がこれをやる。袋から取り出し紙皿に盛り分け、参加者に配るのも参加者がやる。)約50分で出来上がる。少々硬かったが、鶏そぼろで味は良かった。お湯を使うともっと美味しくできるようだが、ペットボトルの水を入れるだけでこれだけの味が出せれば文句はない。これはかなり役立ちそうだ。最後にアンケートを記入して12時前、解散となった。

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Facebook「豊島区防災危機管理課」ページにも避難場所等の情報が載ります。
Twitterは豊島区防災危機管理課 ユーザー名:toshimabousai
豊島区区役所危機管理課のホームページ上で「豊島区安全・安心メール」に登録すると災害時メールでも情報が届きます。
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実際の災害時には・・・
首都直下型地震の23区の震度想定は震度6強とされている。3:11では5強であったが、6強となると別世界である。東京では未体験ゾーンに突入することになる。従って、実際の災害時には以下のことを覚えておく必要がある。

1.      人々はパニックしている。混乱している、怪我をしている。
今回は訓練なので整然としていたが、実際は余震に怯えながら、叫び声や泣き声、罵倒が飛び交っているものと思われる。とにかく、「むやみに動かない」こと。数十万人が一斉に動くと、試算では道路は大混乱となり、約200万人が「満員電車状態」の中に3時間以上巻き込まれることになるという。地震直後は身を低くし頭を保護し、余震が来る前により安全なビル内、もしくは近くに広場がある場合はそこに移動する。いずれにしても交通はストップするので帰宅できない。勤務先に留まることになる。

2.      避難所に行くまでの道に散乱物、落下物がある。
電柱が倒れ電線がぶら下がっている場合がある。水道管やガス管が破裂して道に吹き出している場合がある。火災が起きている。夜の場合、停電で道が見えにくい。などなど。

3.      職員や店舗の店員が被災 避難者を誘導できるのか? 
誘導者がいない中でデマが飛び交うことになる。スマホで正確な情報を得よう。上記のごとく、豊島区の場合はFacebookページで情報を確認できる。

4.      ホテルの宴会場は常に空いている訳ではない
当然、営業中なのでお客さんが使っている場合がある。一時滞在施設は複数考えておかなければならない。今回は訓練でせいぜい数百人の参加者だが、震災時、想定では池袋駅に帰宅困難者が8万5000人現れる。

5.      トイレ問題。
訓練ではホテルのトイレ場所が紹介されたが、実際は断水、停電という状況なので、トイレは使えないと考えておいたほうがよい。今日の訓練でもエアマットやアルファ米の話は出るのだが、肝心なトイレ対策については一言も無かった。しかし、過去の震災の例から避難所では必ずトイレ問題が起こっている。また今回エアマットやアルミシートが配られたが、ホテルがそれらを保管している訳ではない。たまたま訓練用に外部から運ばれている。外部からの場合、持ってこれない可能性もある。

6.      そもそも避難スペースが無い
次期災害では最悪、首都圏で800万人が帰宅困難となるという。滞在施設と言っても、そもそもスペースがない。首都圏は昼間人口が膨れ上がり、外部からの通勤、通学、出張、観光などの非居住者が多い。つまり、帰る家がない人々で溢れることになる。ぜひ、JRの駅や地下鉄駅も含め、あらゆる屋根のあるところを提供して頂きたい。

ともあれ、自助が7割、共助が2割、公助が1割と覚えておくべきで、できるだけ自分の身は自分で守れるようにしたいものだ。小さくパックした防災グッズパック(緊急トイレ、三角巾、バンドエイド、ビニール袋、カロリーメイト、ポケット版防災マニュアルなど)を仕事カバンなどに入れておくようにしたい。

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東京には小金井公園や光が丘公園など防災公園と指定されている公園がある。代々木公園や日比谷公園には地下に災害時用の貯水池がある。光が丘公園にはマンホールトイレ(災害時用マンホールの上に個人用テントをたて、緊急トイレとする。)釜戸ベンチ(普段はテーブルの椅子だが、上部をはずすと炊き出しなどの釜戸として使える。)が設置されている。公園は、かなりの広さがあり、広域避難所あるいは、仮設テント設置などで使用されるものと思われる。



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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士

栗原一芳 (くりはら かずよし)
contact@crashjapan.com