2015年6月2日火曜日

震災時のエレベーター問題


生存には建物の耐震性が鍵

5月30日、休日の夜に小笠原諸島西方沖を震源とするM8.1の地震が発生。震源の深さが682キロと深かったため、震度は最大でも5強で止まった。(小笠原と神奈川県二宮で震度5強)そのかわり、フィリピン海プレートのさらに下に潜り込む太平洋プレートの内部での亀裂による地震ゆえに、日本全国広範囲に揺れが観測された。怪我人は出たが死者は出ていない。





2014年11月22日、長野県神城断層で発生した地震は震度6弱という激震だったにもかかわれず、死者がゼロという驚異的な状況だった。先日のネパールでの震度5の地震で6000名以上の死者が出たことと較べると驚異的と言わざるをえない。ネパールの場合は煉瓦作りの耐震性の無い家が崩れ、さらに細かく崩れた煉瓦の瓦礫下には生き残れるスペースもないという状況であった。一方鉄筋の建物には被害が少なかった。阪神淡路大震災の時も1981年以前の建築基準法改正前の建物に被害が大きかった。やはり当然のことながら建物の耐震性が大きな生存の分かれ目となっている。さらに長野の場合は3:11の経験も踏まえ、隣人同士で救出作業をする「共助」のソフト面もしっかりしていたことも大きな要因だろう。



震度4でも駅は大混乱

今回、死者は出なかったものの、交通機関には多大な影響が出た。山手線は点検のため夜中まで停止。京浜東北線では蒲田東十条間で約3時間、東海道線では東京熱海間で約3時間半停止した。都内の主要駅では乗客が溜まり混乱状態となった。震度4(一部の地域では5強)で、この状態だ。来る首都圏直下型では東京23区全域で震度6強という激震となる。どうなるのか?予測ではJR、私鉄は復旧に1ヶ月かかるという。1ヶ月も普段使っている電車が動かないという事態を想像できるだろうか?大都市はビジネスや観光で居住者以外の人の大勢いる。交通がストップすると家に帰れなくなる。地震発生直後は、14万人が新宿駅に溢れるという予測もある。

また今回、午後8時半くらいから足立区で400軒が停電。埼玉県ふじみ野市で約200軒が一時停電した。ちなみに首都圏直下では都内5割で断水、停電が発生し、普及には1ヶ月ほどかかる見込みだという。


首都圏で2万台のエレベーターが停止

今回注目されたのはエレベーターの停止問題。平成21年から揺れによる自動停止が義務付けられた。小さい揺れの場合は30秒ほどで復旧するが、震度4以上になって一度停止すると、専門家による点検がないと、動かせない。来る首都圏直下型地震では首都圏で3万台が、南海トラフ地震では4万2千台が停止するという予測が立てられている。事実、2005年の千葉県北西部地震では首都圏で6万4000台が停止している。(閉じ込め78件が発生!)

 今回の小笠原諸島西方沖地震では震源が遠方にある場合の典型的現象である、長周期地震動が観測された。ゆっくりした水平の揺れで、高層階では船に乗っているような感覚になる。六本木ヒルズでは「円を描くよう」な揺れだったという。今回、首都圏で2万台のエレベーターが停止した。安全のため停止することは良いのだが、その結果、今回分かっているだけで14件の閉じ込めが起っている。また、芝浦の48階建て高層マンションでもエレベーターが一時停止したが、復旧に時間がかかってしまい、高層階の人の日常生活に影響が出た。さらに今回は休日ということもあり、観光スポットに多くの被害が出た。六本木ヒルズ52階の展望フロアへのエレベーターが停止。100名以上が展望台に取り残された。非常用エレベータで避難した。スカイツリーでも同様の事態となった。都庁45階の展望台に取り残された人は職員の誘導で、エレベータの動いている32階まで階段で降りた。六本木ヒルズの場合は備蓄対策がなされているが、都庁にはお客用の備蓄マニュアルが無いとのことで対策が急がれる。

現在、エレベーター点検には国家資格が必要。(ジェットコースターや観覧車などの点検も含む)しかし、大震災の時にはエレベーター会社から、すぐに作業員が来る可能性は少ない。そもそも点検できる作業員は都内に2000名ほどしかいないと言われている。


次期首都圏直下地震では首都圏で3万台のエレベーターが停止、閉じ込めが1万7400人と予測されている。作業員も被災していることを考えると早急な対処は難しいだろう。また、例え閉じ込めがなくても、日常生活に影響が出る。高層階に住む高齢者は非常階段の上り降りはできない。陸の孤島となってしまう。施設の管理者が点検し最稼働できるよう資格取得の規制緩和をするなど、国も対策を急ぐべきという専門家の声もある。



エレベーターについて知っておくべき事
(日本エレベーター協会による      詳しくはこちらを www.n-elekyo.or.jp/safety

1.エレベーターは十分通気性があり、窒息の心配は無い。
2.非常時にはインターホンで外部(管理人室など)と通話ができる。
3.停電の場合、ただちに非常用バッテリーが作動し、非常用照明が点灯。カゴ内が真っ暗になることはない。法令で30分以上点灯が定められている。
4.最近のエレベーターは揺れを検知すると自動的に最寄り階に停止し、扉を開放する。

震災時は・・・
1.揺れを感じたら行き先階ボタンをすべて押し最初に停止した階で降りる。
2.万一閉じ込められたら、インターホンで通報する。
3.停止してもあわてず、救助を待つ。停止しても非常用照明が点灯する。

そうは言っても数時間救助が来ないことも考えられるので、大きいカゴの場合はできるだけ、緊急ボックスを設置し、水や緊急トイレなど用意して頂きたい。



被害想定予測には原発被害が含まれていない?!

2013年12月19日、首都圏直下型地震の被害予測アップデートが公表された。内閣府中央防災会議の報告では今後30年以内に70%の確率でM7級の直下地震が発生するという。死者は最大で2万3000人、経済被害は95兆円(国家予算に匹敵)。一方、東海第二原発(茨城県東海村)や中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)への影響は議論の対象になっていない。浜岡原発は東海地震の震源域の真ただ中にあり、震度6の激震が予測されている。一度、冷却装置のパイプなどに亀裂が起れば、原子炉の温度は上昇。福島のように水素爆発となれば、放射性物質は舞い上がり、風にのって風下である東京に8時間ほどで到達する。放射能に汚染された不動産は価格が暴落するだろう。東京から北へ車で脱出するにも川を渡らねばならず、橋はすぐに渋滞となる。先日、箱根山の噴火レベルアップ、口永良部島の突然の大噴火があったが、現在も桜島、阿蘇山は噴煙を上げ、蔵王、御岳山など数カ所で危険が指摘されている。地震も震度5級が結構頻繁に起っている。確かに日本は活動期に入っている。それが分かっている保険業界は地震保険料を2〜3割値上げすることを決定している。戦後復興の時期の平穏期とは状況が違ってきているのだ。原発再稼働を議論するにはタイミングが悪すぎる気がするが・・・

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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士

栗原一芳 (くりはら かずよし)
contact@crashjapan.com