2014年9月30日火曜日

災害時の流言、デマ


災害時の流言、デマ

 災害時の2次災害が「流言、風評」そして「盗難」です。今回、広島では、「コンビニではメディア関係やボランティアの人の買い占めがあり、品不足になっている。」という流言がインターネット上に広まったとのことです。しかしTBSが被災地近辺の5つのコンビニを取材してみると、実際は多めに仕入れをしており、買い占めや、品不足はなかったとのことです。(南海トラフ地震や首都直下型地震ではモノ不足は長期化しますので、備蓄は大切です。)


(3:11 津波被害の家、震災後盗難犯罪も発生した。)



流言とは、「事実の確証なしに語られる情報であり、根拠のない風説、うわさのこと」と定義されています。流言の中でも「悪意」を含んだものがデマ。

流言のタイプ
1.災害の前兆・予言に関する流言
2.災害、被害の原因に関する流言
3.災害直後の混乱に関する流言
4.災害状況に関する流言
5.災害再発に関する流言


1923年の関東大震災の時には「品川が津波でやられたらしい」「首相が暗殺されたらしい」「富士山が噴火した」「伊豆半島が沈んだ」などの流言が飛び交ったようです。情報が欲しいのに、情報が無い。そうすると流言が出回るのです。流言を防ぐには行政からの、具体的な、明確な情報が「早く」伝えられることが重要です。地域住民や避難所への避難者へは、被害状況の負の情報だけでなく、「安心情報」も伝えることを心がけて欲しいものです。今回、広島ではかなり早い段階から「心のケア」部隊が避難所に派遣されたようです。また、避難所では、ボランティアによる「温かい汁」が提供されました。そのような情報は「安心情報」の1つでしょう。平常時から防災および、災害に関する啓発を行い、根拠のない情報に惑わされないよう努めたいものです。


(関東大震災時の浅草)


風評は、「事実に反することや些細なことが大げさに取り上げられ、世間でうわさが広まり、特定の人物、業界、地域が被害を受けること。」と定義されています。主に経済的な被害を発生させます。マスコミ、インターネットで広まり、観光業者や農業関係者が被害を受け易くなります。

今回、広島では、ある特定の人種が窃盗をしているなどというデマもインターネットに広まったようです。こうした流言、デマは悪意、好奇心、恐怖、不安、時として敵意などの感情と深く関わっており、「連鎖的」であるとともに「拡散的」であり、情報はねずみ算式に広がっていきます。ツイッターでは字数も限られ、十分な説明のないまま、ワンフレーズが一人歩きします。しかも、瞬時に多数の人の目に触れてしまいます。根拠のない情報が一人歩きすると混乱や、さらなる不安、恐怖を煽る事に成ります。事実確認のためには、行政からの情報はもちろん、コミュニティFMが役に立ちます。

災害は人種問題や貧困弱者問題など、社会の潜在的な問題をあぶり出します。関東大震災時のように暴動、虐殺にまで発展することもあります。また、残念な事ですが、東日本大震災時も心無き人達による窃盗が行われたそうです。

防災、防犯ともに、近隣のコミュニティ力が鍵となりそうです。



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関東大震災時における朝鮮人虐殺




「9月、東京の路上で」という本を読みました。1923年関東大震災時に起った朝鮮人虐殺の証言集です。この東京で少なくも何百人単位の朝鮮人が東京の市民(自警団)によって殺害されたとはショックです。最近、歴史修正主義の流れの中で朝鮮人虐殺は無かったとの主張も出て来ていますが、内閣中央防災会議のリポートでも、この件は歴史的事実として記されています。詳しくは、

http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1923-kantoDAISHINSAI_2/

1923年、9月1日、土曜日、午前11時58分、相模湾を震源とするマグニチュード7.9の大地震が東京を襲いました。死者行方不明者は10万人を超えました。大災害時には情報が寸断されたり、不足するので、流言やデマが飛び交います。「品川が津波にやられたらしい」「首相が暗殺された」など流言が飛び交いました。その中で次第に膨らんでいったのが「朝鮮人の暴動」でした。「朝鮮人が各地に放火している。」「朝鮮人が井戸に毒を入れて回っている」

朝鮮人が、朝鮮人が・・・朝鮮人暴動の流言は地震当日の午後、横浜と東京の一部で発生し、夕方には実際に朝鮮人の迫害に帰結したといいます。

その流言を信じた人々は恐れて、防衛のために町内会で自警団を立ち上げ、「暴動」に備えたのでした。それが嵩じて路上で朝鮮人の疑いがある者を殴ったり、殺したり、警察に突き出したりしました。そのデマを警察や行政までもが信じ、「お墨付き」の警戒情報を流してしまったのです。そして軍や警察も虐殺に加担していたようです。当時、特高警察(公安)のトップであった正力松太郎がのちに書いているところによると・・・「しかるに、鮮人がその後、なかなか東京に来襲しないので、不思議におもっているうちようやく夜の10時ごろに至ってその来襲は虚報なることが判明いたしました。・・警視庁当局として誠に面目なき次第であります。」司法省の報告では、朝鮮人に間違えられて殺された日本人も58人いたと言います。

今日、右翼化が進み、排外主義、ヘイトスピーチが見られる中、首都圏直下型地震が起った時、どうなるのか心配です。過ぎ去った過去の話ではありません。

悲惨な記録の中で、ひときわ励まされた記事がありました。以下、引用してみます。

「小山駅前では、下車する避難民のなかから朝鮮人を探し出して制裁を加えようと、3000人の群衆が集まった。この時一人の女性が、朝鮮人に暴行を加えようとする群衆の前に手を拡げてたちはだかり、『こういうことはいけません』『あなた、井戸に毒を入れたところを見たのですか』と訴えたという逸話が残っている。1996年、この女性が74年に92歳で亡くなった大島貞子という人であることが、『栃木県朝鮮人強制連行真相調査団』の調査で分かった。彼女はキリスト教徒であったという。」

震災後、政府はこの問題をどう扱ったのでしょう。 

「朝鮮人団体や労働組合、キリスト教徒などは震災直後から抗議集会、あるいは追悼集会を開いたが、それらは警察の強硬な取り締まりを受けた。集会では朝鮮人が声をあげると、たちまち集会への解散命令が下り、警察隊がなだれ込んでくるのが常であった。政府は虐殺の事実を忘れさせたかったのである。」

戦後、行政の妨害を受けずに住むようになると、在日朝鮮人による追悼碑の建立が各地で行われ、日本人が主導する碑の建立もあらためておこなわれるようになったそうです。


何とか、顔の見える「防災コミュニティの創出」を震災前に作り、このような惨事を再び起こさないようにしたいものです。

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「9月東京の路上で」1923年関東大震災 ジェノサイドの残響
                加藤直樹著 発行者:ころから

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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士
栗原一芳
contact@crashjapan.com

2014年9月8日月曜日

広島の土砂災害に学ぶ事





今年の夏はたて続けの台風豪雨で九州、近畿に大きな被害が出ました。今回、広島では8月20日の豪雨による土砂災害で70名以上の死者が出ています。土砂災害危険地域は全国で52万箇所もあります。日本列島は7割が山地、しかも、世界で4番目の多雨国。国土の10%の洪水氾濫区域に、総人口の約50%の人々が居住しているのが現実です。ですから 災害は「起ります」。「想定外」という言い訳ではなく、私達は自然災害大国に住んでいるという自覚が必要です。備えは悲観的に、震災後はポジティブに。ちなみに通常、死者行方不明者の数が日に日に増えます。災害直後は混乱状態で被害状況を把握できないからです。時には「情報が無い」ことは「被害が無い」のではなく、「被害が大きい」ことの情報でもあり得るのです。今回の広島土砂災害を防災の観点から検証してみたいと思います。


住民は自分の地域のことをよく知っておく

1)自分の住んでいる地域のことをよく知る。避難所の確認は言うまでもなく、地形、危険箇所、ガソリンスタンドや化学工場などの危険な場所、逃げる時障害となるものなども確認しておきましょう。海抜が低いところは津波などで浸水、水が長期引かない恐れもあります。今回、広島で被害の出たところは花崗岩が風化して出来た柔らかい「まさ土」で、これが被害を大きくした原因の1つと言われています。水に浸かると摩擦力が少なくなり滑り易くなる性質があるそうです。県域の2割はこうした土壌であるそうです。土壌にかかわらず、斜面、崖上、崖下は危険地域です。被害のあった住宅地は10%の勾配斜面に立っており、上から流れて来た土砂のスピードがあまり落ちなかったようです。やはり、自分の地域を知っておくことは大事です。

2)ハザードマップを役所から入手し活用する。こちらのサイトからも入手できます。
  http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/suigai_taisaku/index/menu03.htm

ハザードマップは洪水時の被害予測を示しています。ただ、浸水は河川の近くだけでなく、都心のど真ん中でも起ります。豪雨などで、短時間に多量に雨が降り、排水が十分でないとたちまち道路や地下道、地下街が浸水してしまいます。これを内水氾濫といいます。ハザードマップはあくまで目安で、危険マークがない所でも災害は起る可能性があります。安心しないで、様々なことを想定してみることは必要です。



避難とは難を避ける事であって必ずしも避難所に「行く」ことではありません。
豪雨の時は避難所に行く途中に流される危険もあります。避難所が危ない場合もあります。木造住宅に囲まれた公園などは大地震の時、火炎と煙に取り囲まれます)。水害、土砂災害に関しては垂直避難(遠くでなく、上へ)、また斜面の反対側の部屋へ。地震や放射能災害の時は鉄筋コンクリートの新しいビルの中が比較的安全です。


被災者が先ず、知りたいのは「何が起きたのか、どの程度の被害なのか、自分達のいるところはどういう位置づけなのか」「余震や、二次災害は?」です。緊急避難バッグの中に携帯ラジオがあると役立ちます。とくにコミュニティFM地域限定の詳細な情報が提供されますので役立ちます。また災害時には、デマや流言がインターネット上に飛び交いますので、信頼できる仲間同士でのフェイスブック、ライン、ツイッターなどでの情報交換が心強いです。




防災担当者へ、今後に生かす教訓

ここに書く事は決して行政の人達を責める意味ではありません。市職員は限られた人数で、またパニック状況の中でがんばってくださったことを承知しています。また、災害が深夜の豪雨の最中に起こり、避難が難しい状況だったことも分かります。ただ、今後のために検証してみましょう。

1  消防署に入って来た気象庁からの「今後1時間に70mmの降雨量の恐れ」という警戒ファックスを見落としてしまった。

とにかく、災害時にはパニック状態になり、こうした最も大事な情報を見落としてしまったりします。この状況下では、最も大事な情報だったのではないでしょうか? 危機の時の情報収集は命にかかわります。今後、情報収集だけに専念する責任者をはっきり決め、ファックス機の前にから離れず、優先ファックスに赤印をつけて、意思決定者に即持って行く体制が必要です。危機管理チームは、意思決定者の下に、情報収集担当、記録担当(後の検証のため)、通達/連絡担当の最低3役が必要です。会社、団体でも同じです。少しでも混乱を避けるため、前もって役割を決めておくことが大事です。

2. 警報サイレンが鳴らなかった。

誰が鳴らす判断をするか決まってなかったといいます。 「誰かがやる」は、「誰もやらない」と思ってください。防火管理においては、消防への連絡係、初期消火係、避難誘導係の3役を決めておくことになっています。そうしないとパニックの中、誰かが通報するだろうで、結局、連絡が遅れるという事態も起こりえます。ただし、豪雨の時はサイレンが聞こえない場合もあります。そうすると緊急メールが役立つのですが・・・

3.「緊急メール」を配信していなかった

  広島市の土砂災害で、市が発生当日に避難勧告・指示を住民に携帯電話で  
  伝達する「緊急メール」を配信していなかったことが4日、市への取材で
  分かったといいます。緊急メールは事前登録の必要がなく、市内にいる人
  の携帯電話に大きなアラーム音とともに避難情報を一斉配信する有効な情
  報伝達手段で、配信されていれば被害を軽減できた可能性があり、市は対
  応に問題がなかったか検証するようです。市は発生当日の8月20日、
     「(避難勧告・指示の対象地域より広範な)市全域に届いてしまう」として使用
  せず、配信地域が限定できる防災情報メールを配信してたのです。ただ、
  防災情報メールは事前登録が必要で、登録件数は市人口の4・7%にすぎ
  なかったのです

4.想定外の土砂が下流の住宅地に流れ込んだ

  ニュース記事によると・・
 「 広島市土砂災害で、大きな被害が出た安佐南区八木地区で、土石流の 
  発生起点が、広島県の想定より最高で約200メートル高い斜面だったこ
  とが31日、土木学会などの調査でわかった。広島大の土田孝教授(地盤
  工学)は、「想定よりも山奥で崩壊が発生したため、下流の住宅地に予想
  以上の土砂が流れ込み、被害が拡大した可能性がある。危険渓流の範囲を
  どのように設定したらよいか、基準について再検討すべきだ」と話してい
  る。」

  正確なハザードマップを作ること。それを住民に認知させ活用させること
  その両方が必要です。ハザードマップの作成は市町村に義務付けられていますが、
  マップがあっても、住民が知らなかったり、活用していなかったりするケースが多い
  です。危険地区には行政が日頃からチラシを配るなどして危険地域であることを認知
  してもらう努力も必要ではないでしょうか? 




次期首都圏地震に向けて

都心で大地震災害が起るとどうなるのか?想像力を働かせて考えてみましょう。

関東を襲う次期大規模災害は複合災害となります。家屋倒壊、広域同時多発火災、地割れ、ガス漏れ、電線ショート、停電、爆発、津波、浸水、落下物、液状化、そして二次的問題としての長期停電、長期食料不足、医療パニック、暴動、窃盗、瓦礫処理、インターネット上のデマによる混乱、仮設住宅スペース問題など。それに放射能汚染が加わるかも知れません。
(写真右下は関東大震災時の火災旋風)

行政の避難勧告遅れが指摘されますが、避難する住民の側にも問題があります。いわゆる「正常バイアス」です。「自分は死なないだろう」「ここには被害が及ばないだろう」と大多数に同調して何の根拠もなく「安心」してしまうのです。「みんながここにいるから大丈夫だろう」と避難しないのです。そして災害に会ってしまったケースが多いのです。「率先して避難」することも大事です。






長期的な避難生活については冷静に判断してください。避難所は通常満員になります。プライバシーもなく、ストレスが溜まります。家が住める状態なら自宅避難がいい場合もあります。ただし、その場合は物資が届かない可能性もあるので、近隣へのボランティア活動(物資のお届け)が始まってから連絡して、移るのが良いかも知れません。病院も満員になります。生命にかかわるシリアスなケースのみ受け付けることになります。軽傷は自分で手当てできるようにしておきましょう。おそらく一番現実的に役に立つのは救急手当の訓練でしょう。止血や包帯の巻き方など、消防署や赤十字での訓練を受けておくのが望ましいです。誰もがお互い助けられる状態にしておきましょう。被災者が被災者を助ける事態となるのです。




震災直後は、長距離は移動できないので、コミュニティFMなど地元情報が一番役立ちます。住民も行政まかせではなく、主体的に自らの地域について調べ、指定されている避難所の安全状況などを確認することも必要かも知れません。通常は行政お任せ8割、自分2割くらいの感覚ですが、防災に関しては自分8割、行政2割くらいのつもりで取り組むのがいいのではないでしょうか?ある市では市が率先して市民災害ボランティアを養成し、災害時のボランティアセンター立ち上げの働きをしてもらうことにしています。まだまだ避難所の受け入れ態勢が十分でないところが多いようです。

防災課の職員も限られているので、やはり、住民の主体的な行動が大切になってきます。古くから住んでいる方々はネットワークがありますが、新興住宅地の場合、お互いを知らないケースも多く、また古くから住んでいる人達のグループと新しい移住者のグループとの交流もない場合があります。意図的なコミュニケーションの「場」つくりが課題となってきます。
 
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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士

栗原一芳
contact@crashjapan.com